【財務指標①】短期的安全性の分析
(直近の支払能力を調べよう)

 会社に不測の事態が起きたときに、すぐさま経営の危機に陥ってしまうような財務基盤だと、今後事業を継続していくことはとても難しくなります。

 経営を進めていくにあたって、売上高の増加や経費削減を目標にすることは多いと思いますが、それを実現させるには、安定した財務基盤のうえでしか成り立たないことを忘れてはいけません。

 会社に安定した財務基盤があるかどうかは、その会社の支払能力で判断することができます。

 会社に支払能力があるということは、直近の会社のお金がうまく回っているということであり、滞りなく支払いをするだけの儲けがあるということです。

 経営分析においては、『短期的な支払能力』か『長期的な支払能力』かで確認する方法が異なりますが、まずは短期の支払能力を確認するために、『短期的安全性の分析』を試みてみましょう。

 

◆短期的安全性分析とは

電卓

 短期的安全性の分析とは、会社の今後約1年以内の支払能力があるかどうかを分析します。

 会社が倒産したり、倒産の危機に直面するケースは、直近の資金決済が滞るときがほとんどです。

 直近とは、今から1ヶ月以内の場合もあれば2ヶ月以内の場合もありますが、大体向こう1年間の資金決済能力があれば、その会社は倒産の危機がなく、安全であると判断することができます。

 短期的安全性を分析するには、次の2つが代表的な財務指標となります。
 

 ・当座比率
 ・流動比率

 

◆当座比率

当座資産/流動負債

 当座資産を流動負債で割った割合を『当座比率』といいます。

 当座資産とは、流動資産のうち、現金又は短期間のうちに現金に換えることができる資産をいい、「現金預金」「受取手形」「売掛金」「1年以内売却予定の有価証券」「未収入金」や「短期貸付金」が含まれます。(貸倒引当金を除く)
 当座資産と流動資産の大きな違いは、棚卸資産が含まれているかがポイントになります。

 流動負債には1年以内に支払義務の発生する負債である「支払手形」や「買掛金」などがあります。
 

 『当座比率』は、当座資産の金額が流動負債に対してどのくらいあるか、仮に流動負債をこの瞬間に全て支払うとした場合に、それだけの資金があるかどうか確認することができる財務指標です。

 そのため、100%以上であれば安全水準であるとされ、120%以上であれば良好といわれます。
 70%に達していないと危険水準とみな
され、信用情報として決算書の提示を求められた場合には、説明が求められる可能性があります。

 また、実際に事業を進めていくなかで資金繰りが厳しく感じられてくる頃かと思います。

 ただ、100%以上であっても、注意点が2点あります。

 

◆注意点①貸借対照表は決算日時点の一時点のみを表示している 

 これは貸借対照表の数値を扱う全ての財務指標にいえることですが、一時点のみをピックアップしているため、タイミングによって数値が変わってきてしまうということです。

 そのときだけ、たまたま当座資産が多いのかもしれないし、たまたま決済の関係上流動負債が増えているだけなのかもしれません。

 対策としては、当座資産や流動負債の残高の平均値を使用します。そうすることで残高を平準化し、実態に近い数値を反映することができます。

 

◆注意点②売上債権が多いとき

 売上債権が多いときは、直近に大型案件の売上が発生したために大きかったり、曜日の関係による決済日の影響により大きくなっている場合があります。

 そうではなくて、もし不良債権などがあるきには、短期に現金化できないにも関わらず当座資産が増えていまい、当座比率が大きくなってしまいます。

 そのような場合には、この財務指標は正しい数値を表さないため、売上債権の管理表を見て判断する必要が出てきます。不良債権の確認が出来たら、当座資産から不良債権を除いた金額をもって『当座比率』を算定してください。
 

 『当座比率』はその使用方法さえ間違わなければ、短期的な安全性を測るうえではかなり有効な財務指標であるため、資金繰りに不安がある会社の方は、一度算定してみることをお勧めします。

 

◆流動比率

流動資産/流動負債

 流動資産を流動負債で割った割合を「流動比率」といいます。

 流動資産とは、当座資産に加えて「棚卸資産」や「短期前払費用」などを加えた金額をいいます。「当座比率」と同様に、会社の短期的な安全性を測る財務指標として用いられますが、個人的にはあまりお勧めはいたしません。

 

◆理由① 換金性のない資産も含まれている

 『短期的な安全性』は支払能力で判断しますが、「短期前払費用」などの換金性のない資産を支払能力の算定上含めるのは、誤解を招くおそれがあるように思えます。

 短期前払費用などの勘定科目は、すでに支払っていて、今後役務提供を受ける権利を有していることから資産に計上されていますが、誰かに譲ったりできるわけないからです。

 そのため、換金性のない資産を排除したほうが正しい支払能力を測ることができ、短期的な安全性を見るのに適していると思います。

 

◆理由② 棚卸資産が多い場合は注意

 棚卸資産は、現金預金だったものが棚卸資産に形を変えているものです。

 その棚卸資産が多くなっている理由が、翌月ないし翌々月に売上予定の商品等であれば良いのですが、単純に在庫として残ってきてしまっている、ようは不良在庫が増えている状態ですと、それは会社のお金の流れが滞っているということを意味しています。

 現金預金や売上債権が少なくなってくると危機感を感じる方は多いですが、棚卸資産が多くなってきて危機感を感じる方は、前者に比べて少ないように感じられます。

 在庫のままでは損益計算書上は費用として計上されないことから、利益を圧迫する要因にはならないためなのかもしれません。

 不良在庫でないにしろ、棚卸資産はすぐに現金に変わるものではないため、多すぎる場合には資金繰りに悪影響を及ぼしかねないので、注意してください。

 かと言って、棚卸資産を少なくしすぎると、欠品事故などを引き起こす可能性が出てきてしまい、取引先への信用を失いかねません。同時に売上の機会も奪われてしまうことになります。

 このあたりは業種によって様々であるため、そのときの状況により判断するしましょう。

 

 以上より、「流動比率」のみで判断するのはお勧めできず、ご使用になる場合は、「当座比率」と併せて判断するほうが良いでしょう。

 

 

 そのほか、「運転資金」も短期的な安全性を測るうえでは重要な指標ですが、こちらについては別のページでご紹介しています。

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