暗号資産(仮想通貨)の取り扱い①
計算方法

 暗号資産とは、以前は仮想通貨と呼ばれていて、2019年5月1日に施行された資金決済法の改正により名称が変更されました。(世界的にみても、暗号資産という呼び名が通例のようです)

 その歴史はまだ10年ほどと浅いですが、「億り人」などのキーワードが話題になったり、税法においてもその取扱いが注目されていました。

 ここでは、暗号資産(仮想通貨)の所得税法の取扱いを解説していきます。


 ・暗号資産(仮想通貨)とは
 ・所得区分は?
 ・計算方法
 ・総収入金額
 ・必要経費
 ・譲渡原価等
 ・諸経費
 ・損益通算・繰越控除はできません
 ・税率について
 ・最後に

 

◆暗号資産(仮想通貨)とは

 所得税法における暗号資産とは、資金決済に関する法律の第2条第5項に規定されていて、税法独自ではとくに定義していません。

 そのため、『ビットコイン』や『イーサリアム』『リップル』など一般的に仮想通貨と言われているもの全てが対象となります。

 

◆所得区分は?

 暗号資産(仮想通貨)の取引に係る所得は、原則として雑所得(総合課税)となります。

 暗号資産の取引は、『暗号資産交換業者での購入』『売却』『交換』『決済』『マイニング等』など多岐にわたりますが、全て雑所得として計算します。
 

 ※暗号資産取引で生計を立てていることが明らかな場合や、事業における決済手段等で暗号資産を積極的に使用している場合には、例外的に雑所得以外の所得(例えば事業所得など)となります。

 

◆計算方法

 暗号資産(仮想通貨)取引は雑所得に分類されるため、その計算方法は次のとおりです。
 

   総収入金額-必要経費=雑所得


 所得税法では、個人が享受した様々な利益を10種類の所得に区分して計算しますが、雑所得は、そのどれにも分類できない所得が集まっているところです。

 そのため、各々の利益の内容に沿った所得計算が必要になるため、暗号資産取引のもとでは暗号資産の取引形態に沿った所得計算を行う必要があります。

 

◆総収入金額

 暗号資産(仮想通貨)取引での『総収入金額』とは、基本的にはその時点における時価となります。

 代表的な取引を例として、総収入金額に算入する金額を紹介します。
 

◇暗号資産の売却

 売却時点における暗号資産の時価(日本円に換算した金額。以下同じ)となります。

 

◇暗号資産同士の交換

 所有する暗号資産(Aとします)と他の暗号資産(Bとします)を交換した場合には、暗号資産Aの売却により得た資金をもって暗号資産Bを取得したと考えます。

 そのため、暗号資産Bの交換時の時価が、総収入金額となります。

 

◇暗号資産による商品の購入

 商品の決済手段として暗号資産を使用した場合には、その暗号資産の売却により得た資金をもって商品を購入したと考えるため、その商品の決済時点の時価が、総収入金額となります。

 

◇マイニング等による暗号資産の取得

 マイニング等により暗号資産を取得した場合には、その暗号資産の取得時の時価が総収入金額となります。

 

◇分裂(分岐)による暗号資産の取得

 分裂(分岐)により新しい暗号資産を取得した場合には、総収入金額に算入する金額はありません。

 これは、新しい暗号資産は分裂(分岐)時点おいて取引相場がまだ存在していないため、価値を有していないと考えているためです。そのため、新しい暗号資産の時価が0円となるため、総収入金額はありません。

 

◆必要経費

 暗号資産(仮想通貨)取引での『必要経費』とは、

 ①暗号資産の譲渡原価、その他暗号資産の売却に伴って直接要した費用
 ②暗号資産の諸経費全般

 のことをいいます。

 そのため、『必要経費』には『①譲渡原価等』と『②諸経費』の2つの意味があります。

 

◆譲渡原価等

 暗号資産取引での『譲渡原価等』には、暗号資産の交換や決済、売却のときにおける『暗号資産の原価』と『交換や売却時の手数料』が対象になります。

 暗号資産の原価計算に係る評価方法については『総平均法』と『移動平均法』があり、届出を出すことにより選択することができます。

 届出を出さなければ、自動的に『総平均法』を選択したものとみなされます。

 

◇取得価額

 暗号資産の取得価額は、原則としてその取得時に要した支出額となります。このとき、暗号資産交換業者等に対して手数料を支払った場合には、その手数料も取得価額に含めます。
 

 そのほかの方法で暗号資産を取得した場合には、次のようになります。

■相続や死因贈与等による取得
 …亡くなった時における暗号資産の時価
 (被相続人が選定した評価方法に基づく)

 

■贈与や遺贈による取得
 …贈与や遺贈時における暗号資産の時価

 

■交換・分裂・マイニングなど上記以外の方法による取得
 …そのときの時価

 

◇総平均法

 『総平均法』とは、その年の初めに所有している暗号資産の評価額と、年中に取得した暗号資産の取得価額との合計額を、その年中に所有・取得した総量で除して計算した金額を、12月31日時点で保有している暗号資産の評価額とする方法です。

 

◇移動平均法

 総平均法はその年中に所有・取得した総量をベースとして計算するのに対して、『移動平均法』とは、暗号資産を取得するたびに取得価額の平均値をとる方法で、12月31日の直前の平均値が自動的に年末時点の評価額となる方法です。

 

 ※『総平均法』と『移動平均法』については、『暗号資産(仮想通貨)の取扱い② 譲渡原価の計算方法』
で詳しく解説いたします。


◇所得税の暗号資産の評価方法の届出書(記入例あり)

 暗号資産の評価方法は、その種類(”ビットコイン”やアルトコインに代表される”イーサリアム”など)ごとに『総平均法』か『移動平均法』かを選定することができます。

 選定するタイミングは、

 ・初めて暗号資産を取得したとき
 ・異なる種類の暗号資産を取得とき

 のどちらかで、評価方法を選定したいのであれば、その暗号資産を取得した年の確定申告期限(取得年の翌年3月15日まで)に、選定した内容を記載した『所得税の暗号資産の評価方法の届出書』を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

※届出書はこちらから取得できます。→国税庁HP 所得税の暗号資産の評価方法の届出書


 

◇所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書(記入例あり)

 暗号資産の評価方法を変更したい場合には、変更したい年の3月15日までに『所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書』を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

※届出書はこちらから取得できます。→国税庁HP 所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書

◆諸経費

 暗号資産取引での『諸経費』には、『インターネットやスマートフォンの通信費』や『パソコンの購入費用』などが対象となります。

 ここで、一つ注意点があります。

 暗号資産の取引を目的として、パソコンを購入したりインターネットを繋いだとしても、実際はそれ以外の目的でも使用しているのではないでしょうか。

 このような、一つの支出が私用と業務用の両方に関わり合いがある費用を『家事関連費』といい、税務調査では目を光らせています。

 税務調査で指摘を受けないよう、これらの項目を必要経費に算入するときには、取引の記録に基づいて私用と業務用とを明確に区分していることを記載したものを作成するようにしましょう。

 

◆損益通算・繰越控除はできません

 暗号資産取引によって生じた損失は『雑所得』とされているので、その他の所得と相殺することはできません。(異なる種類の暗号資産同士の相殺や、他の雑所得(先物取引を除く)との相殺は可能です。)

 また、同じ雑所得でも先物取引などの損失は、翌年以後3年間に生じた先物取引に係る所得と相殺できる繰越控除が認められていますが、暗号資産取引の場合には、繰越控除は禁止されています。

 そのため、ある年がマイナス(損失)で翌年がプラス(利益)だとしても、翌年の利益については丸々税金がかかってしまいます。

 

◆税率について

 暗号資産取引は、総合課税の雑所得として計算されるため、超過累進税率により所得税が課せられます。

 超過累進税率は、その所得の大きさに応じて税率が高くなっていく仕組みになっているため、儲かれば儲かるほど支払う税金が増えていきます。

 そのため、今年の所得が大きくなりそうだと見込めるときには、概算で構わないため、納税額を把握しておきましょう。

 

◆最後に

 暗号資産(仮想通貨)について、一般的な計算方法を解説しました。

 暗号資産の税務は、ほかの取引に比べて、まだまだ税務申告の実例が少ない取引の一つです。

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