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株式等の配当等や譲渡等について3ページにわたって解説してきましたが、結局どれを選べばいいのか、どれを選んではいけないのかが結構難しいです。
ここでは、配当等や譲渡等の課税関係について、納税者が余分な税金を支払わないようにするため(不利にならないようにするため)にはどうすればいいのかを解説していきます。
有利判定は、その項目について判定の方法さえわかれば、大失敗はありませんので、下記の方法をぜひ一度試してみてください。
・株式等の課税パターンのまとめ
配当所得の課税方法
株式等の譲渡所得の課税方法
・配当所得で余分な税金を支払わないための選択方法
上場株式等の配当等でない場合(税率により判断)
上場株式等の配当等の場合
①税率により判断
②通常は『総合課税』を選択
③上場株式等の譲渡による損失がある場合
・株式等の譲渡所得で余分な税金を支払わないための選択方法
・有利判定における特定口座の注意点
・国民健康保険への影響
・住民税の申告で課税方法を変えると有利に
・最後に
株式等に関する所得には『配当所得』と『株式等の譲渡所得』があり、その口座の種類等によって確定申告をしなければいけないものや、申告しなくてもいいものもあります。
また、『配当所得』は課税方法を選ぶことができるため、納税者が適切な課税方法を選択しないと、余分な税金を支払うことになってしまいます。
まずは、ざっくりと『配当所得』と『株式等の譲渡所得』の内容を説明します。
配当所得では、上場株式等に該当すれば、その課税方法を『総合課税』にするか『申告分離課税』にするか選ぶことができます。所定の株式に該当すれば申告しなくてもいいときもあります。
また、『総合課税』を選択すると”配当控除”という税金が少なくなる特例を適用することができます。
もう一つの税金が少なくなる特例である”外国税額控除”は、どの課税方法を選択しても、適用することができます。
※詳しくは『投資を始めた方② 配当を受け取った場合』をご覧ください。
株式等の譲渡所得では、配当所得と異なり課税方法を選択することはできません。申告分離課税の一択となります。
特徴としては、上場株式等に該当する場合に損失が生じたときは、上場株式等同士であれば相殺することができ、申告分離課税を選択した配当所得とも相殺することができます。
相殺しきれないときには、確定申告することにより、損失の額を翌年以後3年間繰り越すことができます。
※詳しくは『投資を始めた方③ 株式等を売却した場合』をご覧ください。
配当所得は、所得税の計算で必要な10種類の所得の中でも、一番自由度の高い所得で、上記に述べたように確定申告の有無や、課税方法を選択することができます。
配当所得が生じた場合に、どの方法を選ぶと有利になりやすいかを紹介します。
なお、有利になりやすいだけであって、確実性を保証するものでありません。
個々の事例により結果は変わってきますので、必ずご自身で検算しましょう。
上場株式等の配当等でない場合には、課税方法は『総合課税』しか選択することはできません。
ですが、1回の支払金額が10万円(計算期間により金額が変わります。)以下の場合には、確定申告しなくてもいいとされています。
『総合課税』では税率は一定ではなく、その所得金額に応じて税率が高くなっていく超過累進税率を採用しているため、有利判定をするときには、まず実効税率を把握する必要があります。
上場株式等の配当等でない場合の源泉徴収税率は20.42%のため、実効税率がこれより少ないのであれば確定申告したほうが有利となり、多いのであれば確定申告しないほうが有利になりやすいです。
実効税率は、確定申告書B(令和3年分以降)を例にとると、第一表で配当所得を含めた金額での「㉛上の㉚に対する税額」÷「㉚課税される所得金額」の税率に1.021を乗ずることにより確認することができます。
なお、ここではあえて配当控除については考慮していません。配当控除は株式等の種類によって税率が異なってくるので、この計算に無理に含めてしまうと判断を誤る可能性があるためです。
以上より、実効税率が源泉徴収税率より低い場合には、確定申告したほうが有利になります。
また、実効税率のほうが源泉徴収税率よりも高かったとしても、この税率は配当控除を加味していない税率のため、このときには実際に計算して判定する必要があります。
上場株式等の配当等では、選択肢が複数あってどれを選べばいいのか迷ってしまいますが、ポイントさえ抑えておけば、そこまでは難しくありません。
上場株式等の配当等でも、確定申告するか否かは、上記と同様に実効税率で判断します。
上場株式等の配当等の場合には、基本的に確定申告しなくてもいいとされています。確定申告するときは、申告したほうが有利なときだけです。
この有利判定のために、実効税率を使用します。
上場株式等の配当等について確定申告する場合で、特になにもないのであれば、通常は『総合課税』を選択します。
これは、『申告分離課税』を選択しても、申告分離課税の税率は20.315%(所得税15.315%・住民税5%)、源泉徴収税率も20.315%(所得税15.315%・住民税5%)と同じ税率のため、意味がありません。(後述しますが、無駄に申告してしまうと、国民健康保険料が高くなるかもしれません)
また、申告分離課税を選択すると、税額控除である「配当控除」が受けられなくなってしまいます。
このような理由から、『総合課税』を選択することが有利となります。
『申告分離課税』を選択したほうが有利なときは、上場株式等の譲渡損失が出たときです。
上場株式等の配当等で申告分離課税を選択すると、上場株式等の譲渡により生じた損失と相殺することができます。
例えば、配当を受けると源泉徴収されますが、この配当所得を申告分離課税として株式等の譲渡損失と相殺することにより、源泉徴収金額の全部又は一部の還付を受けることができます。
株式等の譲渡所得では、配当所得のように課税方法の選択はなく、『申告分離課税』一択となります。
株式等の譲渡所得で利益が生じた場合には、申告分離課税により確定申告しなければなりませんが、損失が出た場合には、本来は税金がかからないため、確定申告の必要はありません。
ですが、余分な税金を支払わないために、上場株式等を売却したときに損失が生じた場合には、確定申告するようにしてください。
なぜかと言うと、上場株式等の譲渡損失は、
①申告分離課税を選択した配当所得と相殺することができる
②損失は、その年の翌年以後3年間繰り越して相殺することができる
ために、損失でも確定申告したほうが有利なのです。
特定口座で「源泉徴収」と「配当等の受入れ」を選択している場合の注意点です。
特定口座で「源泉徴収」と「配当等の受入れ」を選択していると、その口座内での譲渡等や配当等の計算結果をもとに源泉徴収を行うため、何もしなくても課税関係が完結します。そのため、投資家や確定申告に馴染みのない方にとっては、とても便利な仕組みです。
この口座は確定申告しなくてもいいことが売りの口座ですが、上場株式等の譲渡損失が生じた場合には、確定申告したほうが、もちろん有利になります。
ですが、ここで注意点があります。
譲渡損失と配当等を相殺して源泉徴収を計算しているため、必ず『譲渡所得(損失)』と『配当所得又は利子所得』を一緒に確定申告してください。
『年間取引報告書』に記載のある所得の全てを確定申告するということです。
これは、その口座内で源泉徴収した税金は、『譲渡所得』と『配当所得又は利子所得』を相殺した所得をベースに計算された税金であるため、どちらか一方だけ確定申告してしまうと、清算すべき源泉徴収額が正しい金額ではなくなってしまいます。
そのため、相殺しているときには、セットで申告しなければなりません。
※相殺していない、即ち譲渡所得として税金が発生しているのであれば、セットで申告する必要はありません。
税金の話しとは別に、少し国民健康保険の話しをします。
国民健康保険は、社会保険である健康保険に加入していない全ての者が加入する保険制度です。
国民健康保険料は、前年の総所得金額をベースに計算され、各年分(4月~翌年3月)の年間保険料を計算します。例えば、令和4年の4月から令和5年の3月までの年間保険料を計算するときは、令和3年の総所得金額をベースとしています。
では、国民健康保険を管理している市役所や区役所等は、前年の総所得金額の情報をどこから仕入れているかというと、所得税の確定申告から情報を得ています。
正確には、所得税の確定申告を税務署に提出したあと、市区町村にその情報が伝達されて住民税等が計算され、そのときに国民健康保険料も計算されます。
所得税の確定申告とは別に住民税の確定申告をしたときは、住民税の確定申告に記載された所得金額をベースとしますが、通常は所得税の確定申告だけしかしません。
そのために、所得税の確定申告の金額をベースとして国民健康保険料が計算されるのが一般的です。
住民税の確定申告をするのは一般的でないと言いましたが、したほうが有利なときもあります。
それは、本来なら確定申告しなくてもよい配当所得や譲渡所得を、株式等の有利判定の結果、所得税の確定申告に含めたときです。
住民税の確定申告では、所得税の確定申告で配当所得や譲渡所得を申告していたとしても、住民税で確定申告する必要のない配当所得や譲渡所得であれば、これらについて申告しなくてもいいことになっています。
また、令和3年分の所得税の申告から、第二表にある住民税について記載する欄の『特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部申告不要』に〇をしておけば、住民税の総所得金額をベースとして計算する国民健康保険料が安くなります。
ぜひ試してみてください!
※2021年12月に発表された税制大綱で、この規定は、令和5年分の住民税の申告(令和4年分所得金額)までしか適用することはできず、令和6年分の住民税(令和5年分所得金額)からは廃止となることが決定しましたので、ご注意ください。
確定申告のなかでも、特に判断が難しいとされる、配当等と株式の譲渡等の有利判定について解説しました。
株式等の有利判定は、税理士のなかでも苦手とされる方が多い論点の一つですので、最後まで読んだけどいまいちよくわからないという方も多いのではないかと思います。
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